実際の見学順序とはちと違ったりもするが、ここからは「物質生命科学実験施設・ハドロン実験施設」での見学の様子などを御紹介。
一つ前の記事「50GeV シンクロトロン」で光速の99.98%という凄まじい速度にまで加速された陽子。295㎞先の岐阜県神岡町にあるスーパーカミオカンデへ最終的にニュートリノとして打ち出されるラインが最近では有名ではあるのだが、もう一つの重要なライン(中性子を利用した各種観測)の心臓部とも言うべき装置がこちらの「核破砕中性子源水銀ターゲット容器(予備機)」。何だか近未来映画に出てくる宇宙船の部品のような巨大な構造物だな。ちなみに総ステンレス製だそうな。
この平べったい天狗の鼻のような部分には水銀(昔ながらの体温計の銀色の液体と言えば伝わりやすいかな?)が流れていて、凄まじいエネルギーを伴って飛んできた陽子ビームが水銀と衝突した結果、中性子がこの装置で生成される。
何だかさっぱり良く分からない方もいらっしゃるかと思うので、そもそも何でここまでして中性子を作り出す必要があるのかという根本的なお話を。(門外漢なので、色々間違っていたらスミマセン)
健康診断などで肺のレントゲン写真を撮ったりすると思うが、要するにあれの強力な奴だと思ってもらえればいいかな。レントゲン写真だと肉眼では見えるはずの無い人体の内部を写真として撮れる理由は、レントゲンの撮影で人体を通り抜けるX線を使っているから。空港の手荷物検査等で使われているのも同じくX線。カバンの中に妙な物を隠し持っていたりしてもすぐにバレてしまうよね?
ん?…「よね?」って…何だ?
(どうやらこの人、手荷物に間違って工具類を入れてしまい…没収された経験者らしい…)
X線だと人体は透過出来るが骨やら金属だったりするとX線が透過できない(しにくい)事を利用して映像化している訳だが、これを金属(だけでは無いけれど)相手にやろうとすると、X線よりもさらに透過性の高い「中性子」が必要となる訳だ。う~ん…これだとまだ分かりにくいかなぁ?
そんな訳で、一般公開の会場で見掛けた非常に分かりやすい解説がこちら。
かの「シドニーオリンピック」で受け取った金メダルが本物であるかどうかを何と「表彰台の上」で実際に噛みちぎって確認した高橋尚子選手の手法が「破壊検査」。結果的にどうやら本物だったらしいのだが…丸い金メダルが歯形の形に割れてしまったという涙の結末が。
高橋尚子選手の取ったちと乱暴な手法に対して、対象物を壊す事無く中身を確認するのがいわゆる「非破壊検査」。透過性の高い中性子を用いる事によって、金メダルの丸さはそのままに金メダルの中を観測する事が出来る。この目的の為に中性子を作り出している訳だ。
何々…夏休みの自由研究の時期だから一応お断りを入れておいた方がいいんではないかってか?そうか…じゃぁ一応断っておくか。
「わんぱくでもいい…冗談が通じる人間に育って欲しい…」(C)丸太ハム
そんな訳でこちらは「物質生命科学実験施設」の内部の様子。右側の青い扇状の部分に「核破砕中性子源水銀ターゲット容器」があって、こちら側から中性子が各研究施設に向けて飛んでくる。それぞれの研究施設は分かりやすく色分けしてあるんだが…
とにかくデカイっ!(驚)
大きな施設の中には、観測する対象になる試料(小さい)と中性子を捉える為の巨大なセンサー群(デジカメ写真でいう所のセンサーに相当)が備わってます。凄いなこりゃっ!実際にこの施設で研究をされている研究者の方々から解説を伺ったりして有意義な時間を過ごす事が出来ました。皆さん有り難うございます!
分かりやすい解説という意味で特に感銘を受けたのがこの超伝導磁石を解説されていたブース。J-PARCの研究対象自体が正直言って素人には中々分かりにくい中、超電導磁石を使ったおもちゃで子供達の気を惹いた(含む俺)後での解説は本当に分かりやすかったです。第二種超伝導体の持っている性質を実演で解説されていました。レンコンみたいに穴を持っている磁石ってのがあったのか…正直言って全く知らなかったよ…
こちらは第二種超伝導体の持っている「ピン止め効果」を体感する場面。なるほど…この特性って、リニアモーターカーとかでも有効そうだよね。
そして話は変わって、こちらは冒頭でも紹介した現在運用系の「核破砕中性子源水銀ターゲット容器」。もちろん今まさに動いている訳ではなくって点検中です。この写真は三重の鉛ガラスで覆われた放射線管理区域の覗き窓から撮りました。
覗き窓の外側の様子がこちら。「核破砕中性子源水銀ターゲット容器」自体は先端部分も含めて普通のステンレス製ではあるが、高エネルギーの陽子が通過する事によって放射化する(前の記事続いて2度目の話になるが放射能に変化する)。
ターゲット容器の「先端部分」の放射化具合は具体的に言うと何と「10Sv/h」との事。最近我々が良く耳にする単位に換算すると…10000000μSv/hだ。もちろんそんな環境に人間が関われる訳ではない事はあらかじめ分かっているので、厚い壁で覆われたこの区画が存在している。
上の写真は高レベルの放射線源を隔離した上で遠隔操作する現役のマニピュレーターを操作する子供達。実は…後ろ姿とはいえこの写真は載せるの止めようかな?とも思ったが…やっぱり載せる事にした。
おそらく、子供を放射線から守る事に血道を上げている方々にしてみれば信じられない光景なんだとは思うが…(心配要らない。あなたのお子さんを此処に連れてこなければいいだけの話だ。別にこの写真を見たからと言ってあなたのお子さんがどうにかなったりはしない)。
今回J-PARCを見学して分かった事は、放射線から研究者を守る為の備えは昔からあるという事。そしてそれは即時廃炉という皆さんの主張にも必要な技術であろうという事。そして…研究施設としては震度5までしか想定していない(研究を持続するという意味で)という事。
正直言って、今日は「相馬野馬追」の開催日だったのでどちらに行こうかと悩んだのではあるが…御近所のJ-PARCの見学に来て良かったと思ってる。
反原発だとか何だとか色々あるんだろうけど…少なくとも俺自身は見知らぬものに対して盲目的な恐がり方は今後しないで済むと思うから。
そんな訳で、夜は「特選常陸牛サーロインステーキ御膳」を奮発したのでありましたっ!
やっぱさぁ…このくだり…必要無くね?(爆)